2014年6月19日木曜日

日本緩和医療学会始まる(神戸)

 第19回日本緩和医療学会の教育セミナーに参加した。

 午前10時から午後5時まで、神戸ポートピアホールに缶詰だった。45分の講義が7つ。途中何度か休憩をはさんだが、椅子にずっと腰かけて講義を聞くのは、いささか身体にこたえた。
第19回日本緩和医療学会
プログラム・抄録集

 この教育セミナーは、年二回開催されるが、四回通して聞くと緩和医療専門医の資格を取得する際に必要な内容がすべてそろうのだとか。ドクターばかりでなく、ナースや薬剤師も対象としているので、1500名の定員で、会場はほぼ満席だった。

 いずれの講義も面白かったが、川名典子先生の「がん患者とのコミュニケーション —臨死期—」の中の話が、これまでの常識をくつがえすもので新鮮だった。
 コーチングでは、相手に対する共感ないし受容的な態度を示すために、しばしば、相手が言った内容を「オウム返し」に復唱する、という技法がある。






 たとえば、

患者:最近は、がんばっても食事も食べられなくて…弱っているのが自分でもわかります。死んでいくんだなってわかります。
医師:そうですか。食事があまり取れない、よくならないので、死ぬような感じがするんですね。
患者:ええ、このごろもうすっかり気力がなくなって、意気地がないですね。
医師:元気がないので、意気地がないと思うんですね。
患者:もともと意気地のない方なんですよね。みんな親切にしてくれるんですけど。かえって気をつかわれると、申し訳ない気になっちゃって…。
   でも、みんな応援してくれているので、がんばります。

という会話。

 ところが、この会話をロールプレイで演じてみると、患者役をした人の感想は、「自分のつらい症状を医師にくり返されると、よけいに気持ちがつらくなった」、「医師につらい症状をオウム返しに言われると、「あなたは(病気が)悪くなっている」とくり返されているようで、だんだん怖くなってきた」といったもので、「つらい気持ちは分かってもらえないと思った」そうです。そして、「これ以上会話していてもどうしようもないので、「がんばります」といって終わらせた」という感想が上がってきたのだそうです。

 このロールプレイの結果を受けて、川名先生は、臨死期のがん患者との対話においては、「オウム返し」をしないこと、ということを強調されていました。
 それよりも日常的な、普通の会話をする方が患者を元気にするようだと強調されていました。川名先生はご自身の経験で、こんなエピソードを話されました。膵癌の末期の女性患者と話していたとき、ふとしたことから近所にあるピザ屋の話になったことがあった。「あそこのマルゲリータはおいしいのよ」云々という世間話をした後で、「あー、こんな話をしていたら、わたし人に戻ったわ」と患者さんに言われて、ハッとしたそうです。

 このとき、川名先生は「日常生活は患者の人生そのもの」という真実に気づいたのだそうです。痛みの程度がどうかとか便秘はないかとかスピリチュアルがどうとか、ということに気をつかう前に、患者さんの日常に立ち返って会話をすることが、意外に患者さんを元気づけることになるのだ、と指摘されて、目からウロコが落ちたようだった。

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