2014年6月8日日曜日

海外からご遺体を運ぶという仕事がある

 6月7日(土)は、ここでの最後の日当直。

 過去のジンクスでは、その病院での最後の仕事のときにドカンと大きな症例が入ったり、重症例が入ったりしていたので、少しかまえて緊張しながらの勤務だった。幸い、小児の腹腔鏡下虫垂切除術のみで、平穏な日当直を終えた。

 仕事の合間に、佐々涼子『エンジェルフライト 国際霊柩送還士』(集英社)を読んだ。国際霊柩送還士とは、海外で亡くなった方々のご遺体が日本まで運ばれてきたときに、ご遺体を修復して遺族の元に届ける仕事である。
佐々涼子『エンジェルフライト』
(集英社)

 著者の佐々涼子さんは、国際霊柩送還士の仕事をしている、エアハースという会社の取材をして、日本人としての「死」のとらえ方に気づいたという。家族が国外で不幸にも命を落としてしまったとき、どんなに破損した体であっても、たとえ体の一部でも、遺族は亡くなった家族を日本に連れ帰ってほしいと望んでいる。
 さまざまな国から日本に帰されてくるご遺体は、国によってさまざまな姿なのだそうだ。アメリカのようにエンバーミングという死後の腐敗処置をされたご遺体は保存状態がよいが、ドライアイスを入れただけのご遺体は、「貨物」として飛行機で運ばれてくる間に、腐敗が進み、皮膚の色も変色しているという。さらに、事故で亡くなるとご遺体の損傷がひどくなっていたりする。海外で亡くなると、現地で解剖されたりするので解剖痕が残っている。
 こうした傷んだご遺体に手を加えて、故人の生前の姿に戻してから遺族の元に送り届けるのが、彼らの仕事なのだ。

 著者は、死後の魂や死後の世界を信じていない日本人であっても、家族が海外で亡くなったときには、「まず間違いなく亡くなった人が異国で「さびしがっている」ち思い、日本に「帰りたがっている」と感じるに違いない」、「要するに人々は、死後の世界などはないと口では言いながらも、亡くなった人の心は亡くなったあとにもまだ存在していると心のどこかで信じているのだ」と言う。

 昨今の葬儀のあり方についても著者は疑問を投げかけている。著者によれば、「葬儀は悲嘆を入れるための「器」だ。自らの力では向かい合うことができない悲嘆に向き合わせてくれるためのしくみなのだ」そうだ。そして、著者自身の体験を重ねて、「弔い損なうと人は悔いを残す」と述べている。
 「いったいこの時代の我々にとってどんな弔いが必要なのか。あるいはこの国にとってどんな弔いが必要とされているのか。我々は一度ここで立ち止まり、考えてみる時期に来ているのではないだろうか。…悲嘆を癒すためにはいったいどのようなことを我々はなすべきなのか」と、本の最後で著者は問いかけている。

 緩和ケアでも、よくグリーフケアが大切だと言われる。ときに看取りをしなければならない医療現場であるゆえに、医療者は弔い損ねることがないように配慮しなければならないのだろう。

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